横板張りが好き

いつから好きなのか分からないが,大正から昭和ごろの,横に長い板を貼った外壁の建物が好きだ。
一般的には「南京下見板張り」「鎧下見板張り」と呼ばれるものらしい。 (高橋ら2018, 『伝統木造建築事典』)

横板張りの建物

なぜ好きなのか。

横板張り(と本記事では呼ぶ)の建物があるシーンを思い浮かべてみる。田舎の駅,信号小屋,踏切小屋,工事事務所,木造の小学校,町医者,郵便局,学生寮...
なるほど,書き出してみてはっきりした。私はこの形式の建物が好きというよりは,こういう場面がすきなのだ。公な機関や職場と,個人的な生活とが接触する場所。そんな場面に横板張りの建物は多い気がしている。

建物の工法には疎いので,なぜこういった傾向があるのかはわからない。そもそもこの傾向が真なのかもわからない。

一方で民家に横板張りはあまり縁がないように思う。いやもちろん,日本海側の漁村では横板張りを縦長の細い材(押縁)で抑えた外壁の家はよく見る(押縁下見板張り,簓子下見板張りで検索してほしい)。ただ,上の写真にあげたようなシンプルな横板張りは,民家には少ないように思う。逆に,炭鉱や国鉄の職員宿舎に横板張りが使われるのは想像しやすい。やはり,横板張りには公の匂いがするのだ。

おそらく少年時代の私は,公の職場や,それに深く結びついた生活の場に憧れがあったようだ。
もっと具体的に言えば,鉄道や炭鉱やダム建設や,そういった特殊な世界で働く人々が,日頃どんな仕事をし,息抜きを,雑談を,娯楽をし,家族生活を送っていたのか,とても興味があった。

しかしそういったエピソードを収集できるような交友関係はなく,そもそも生まれる時代が遅すぎた節もあり,結局は本を読むか妄想ですませるほかなかった。そして,いやだからこそ,その妄想の映像の舞台はいつも横板張りの建物だったのである。

芦生

そんな私が京大の森林科に入り,峠を2つも越して芦生研究林に初めてたどり着いた時,どんなに興奮したか,当地を訪ねたことのある方なら想像していただけるかと思う。

芦生構内1

芦生構内2

そこらじゅう,横板張りである。
そして,この研究林は国立の大学(正確には違うが)によって維持され,住み込みの教職員さんもおられ,さらには地元採用の方も働いてらっしゃる。まさに憧れていた世界が,その象徴でもある横板張りとともに,眼前に立ち現れたのである...

私はすぐに芦生を好きになった。

芦生が好きな人には,その自然度の高い森に魅せられた方が多いかと想像するが,私の場合は横板張りが入り口であった。

その後,芦生の森自体も好きになり,昔ながらの林学とは関わりの薄い研究をしているけれど,いまでも芦生に来るたびに,事務所構内の横板張りの建物群にうっとりとせずにはいられないのである。

(2023-6)